建物と人 ：　[箱崎九大記憶保存会]
本家 藤よし

昭和25年ごろに開業したという「藤よし」だが、開業当初は筥崎宮参道の屋台だったそうだ。
その後、現在の場所に店舗として移ってからはもう40年近くになるのだという。

昔から九州大学の学生や先生とのつながりは深く、その名残は現在のメニューの名前にも表れていると店主の緒方さんは語っている。

緒方さん：「こういう『ハツ』とか『ダルム』とかドイツ語の腸とかね。ああいうのも、（九大）病院の先生が『ダルムだ』と言ったら『ダルム』と名付けて。焼き鳥の名前つけるのに、そういう医学の先生が言われたのを取り上げて、名前を付けたんですよね。」

現在もほとんど変わらずに残っている焼き鳥のメニューだが、九州大学とのかかわりの中から生まれたものなのだという。また、それらのメニューは当時としては画期的だったようで、先代の店主が開発したものだそうだ。

緒方さん：「みんなが使ってないような、安い部位をね。（昭和）25年ぐらいだとみんなお金がないから、いかに安く美味しく出せるか研究してね。当時はダルムなんかみんな捨ててたみたいです、臭くてね。それをちゃんと塩もみして、臭みをなくして、3時間ぐらい炊いて柔らかくして、そのままだとゴムみたいに固いからね。そうやって、誰でも食べれる柔らかさにしてね。あと、『べんてん』ね、これは雌鶏の生殖器です。七福神の女神『弁天』から名前をとってね。」

これらのオリジナルメニューはすべて先代が開発し、名付けたものであり、そして今でも、変わらずにお店に受け継がれ、お店の名物メニューとなっている。

現在でも研究室の忘年会などで利用されている「藤よし」だが、緒方さんは昔の学生との深い付き合いの様子も話してくれた。

緒方さん：「みんな偉くなっちゃってね。彼らが学生時代のときは、うちの親父さんが四十いくつで、ちょうどお父さんぐらいの感じだったんでしょうね。だから、それこそお父さん時代に慕ってね。飲み方を教えてもらったりとか。」

「あんまり長い酒を飲んでるとね、追い出される。先代はそんな感じ。飲みすぎたらイカンって言って。どのお客さんにもそうで、程よく飲んでもらうようにして、深酒して悪酔いした人は追い出す。」

料飲組合の組合長をしていたという先代の店主は、まわりの飲食店の人からも頼られる存在だったのだという。九大生のなかには、このお店で飲み方を教わった人も多いのではないだろうか。

最後に、現在の箱崎に話を移すと、昔と比べて「みんな素通りしていく」というふうに話していたのが印象的だ。また、九州大学の移転が始まってからやめてしまったお店も多いという。しかしながら、緒方さんはお店を今の場所で続けていくつもりだと話している。

緒方さん：「結構お客さんが来るもので、インターネットとかで来たり。なんかインターネットでランク入りしているからね。それで来るんですよ。たとえば、女性一人で来て、6本ぐらい食べて、お酒を1合ぐらい飲んで帰る、というようなお客さんも結構いますね。女性の一人客なんかも最近は結構来る。で、1回来る人は2回目も来る。癖になるみたいで。ビール1本で、角打ちコーナーみたいな感じで、そうすれば気楽に食べれるでしょ。ご飯は別のところで食べたり。うまい具合にやってます。日曜祭日にも開いてるから、そういうときは結構遠くからもお客さんが来られますね。家族連れてとかね。焼き鳥だけじゃなく何でもあるから。」

お客さんの層は変わっても、「藤よし」は箱崎のまちで昔から変わらない味と雰囲気を残していく。

冊子「箱崎」（2018年4月）より
※取材は2017年に行ったものです。先日、箱崎の「本家 藤よし」は惜しまれつつも閉店されたとのことです。長い間、お疲れ様でした。